お茶のある暮らし
お茶のある暮らし
により Lasse Wehlmann
2025年9月23日
僕にとって、「ティーブランドをやろう」と思ったきっかけは、最近の「飲みものの作られ方」が気になったことだった。
お店やカフェに入ると、ほとんどの飲みものが砂糖やシロップが入っていること。
砂糖じゃなければ、何かしらの添加物。もはや「素材」そのものよりも、「一口でどれだけ美味しいと強烈に思ってもらえるのか」が目的になっているようにも感じる。
それが、どうしても好きになれなかった。
味が薄っぺらく引き延ばされていたり、砂糖で“ごまかされている”ような食べ物や飲み物を口にすると、なんだか誠実じゃないと感じてしまう。
(誤解しないでほしいけど、僕は日本のチーズケーキが大好きで、昨年はチーズケーキを食べ過ぎてしまって15kgも体重が増えてしまった。)
でも僕が求めているのは、その真逆だ。
素材のありのままを活かすこと。それが僕の言う「pure greatness(純粋な素晴らしさ)」だと思っている。
お茶を飲むとき、僕は「葉っぱそのものの香りや味わい」を感じたい。複雑であれいがなら、上質で、奥深い。お茶そのものの味を味わいたい。スペシャルティコーヒーで何年も体験してきた、あの感覚をお茶でも経験したい。
コーヒーを愛し、自分で焙煎し、バリスタとして働いた経験のある僕だから断言できる。
お茶は、70%の人にとって「コーヒーと同じぐらい素晴らしい飲み物」になりうる。
残りの30%の方は、まだ「自分に合うお茶」に出会っていないだけだ。
もしかして読者の一部の人はこう言うかもしれない。
「いや、そんなお茶なんてなんかダサいし僕はコーヒー派。」
僕もそう思っていた。去年、初めて台湾へ行くまでは。
「お茶」ってこんなんだっけ!?
台湾での体験はまさに衝撃そのものであった。それ以前に飲んでいたお茶なんて、ただの“お湯と乾いた草”だったと思うほどに。
台湾で飲んだお茶はどれも、香り深くで茶葉からこんな味が抽出されるのかと思うほど驚きの連続だった。
濃厚で、パンチがあって、ミルクにも合うものを飲みたい!それならば熟成プーアルをコーヒーミルで挽いて、水60gに対してプーアル2g、全脂牛乳100mlを混ぜる。これが、たまらなく美味しい。
リフレッシュしたいからさっぱりするものが飲みたい!阿里山烏龍茶、金萱烏龍茶、生プーアルなんかがすっきりしていて美味しい。
お茶でフルーティーさを味わいたい!日月潭の野生紅茶だけでも果実もをたっぷり味わえるのだけれども、ブルーベリーやプラム、梨やりんごと合わせて最高。
気づいたら、お茶に夢中になっていた。台湾の旅行でお茶を5kgほど買ってしまうぐらいに笑
東京に戻ってから
頭の中はずっと、そのことでいっぱいだった。「なんで東京には、こういう台湾で飲んだようなお茶がないんだろう?」
世界でもトップレベルのコーヒーカルチャーがあるこの街で。サードウェーブのカフェ、美しいデザイン、ハンドドリップバーが並ぶ場所に、なぜ美味しいお茶を飲めてかつゆっくりくつろげる空間がこんなにも少ないのだろうか。
日本でお茶といえば、自販機やコンビニのペットボトル飲料か、茶道のような格式ばったもののどちらかしかない。
その「ちょうど中間」が存在しなかった。
もちろんスーパーにはたくさんの美味しい緑茶の茶葉が並んでいる。僕も900円で購入できる鹿児島産の緑茶が大好きで常備している。でも台湾茶や中国茶のように香り高くて何煎も繰り返し飲められないのがとても残念だと思うことが何回かあった。
日本で気軽に立ち寄れて、コーヒーラテを頼むように阿里山烏龍茶を注文して、ただ座ってゆっくり飲めるような場所。そんな空間は僕の知る限り日本ではまだない。
格式ばった儀式も砂糖もいらない。ただ「良いお茶」が飲める場所。
それが TBD° のはじまりだった。まだブランドができていなかった時の、僕の頭の中にある思いだった。
「なぜお茶は、コーヒーのように“現代化”されていないのか?」「なぜ“コーヒーのようなお茶屋”がないのか?」「なぜ私たちは、コーヒーか、砂糖まみれの飲みものか、炭酸か、700円のルイボスティーという選択肢しか日常の中で選べないのか?」
僕たちのティーバッグへのこだわり
お茶をもっと多くの人の日常で簡単に取り入れられるためには、「手に取りやすい」という要素が必要だった。そこで考えたのが2つの選択肢。
ティーバッグ
トラベルティーセット
でも多くのティーバッグは僕の求めている形ではなかった。
茶葉が多すぎて広がらないか、少なすぎて味が出ない。しかもほとんどが「プラスチック」の素材が入ったティーバッグなのだ。
日本に来て驚いたことに、多くのものがプラスチックで包まれている。僕の生まれ故郷ドイツやヨーロッパでは、プラスチックに含まれているマイクロプラスチックが人体に悪影響を及ぼすことが結構共通認識としてあるので、スーパーで売られているものは基本的にプラスチックが使われていない。日本ではバナナがプラスチックに包まれて売られていて、最初は本当に驚いた。
実はプラスチック製のティーバッグもお湯を注ぐたび、マイクロプラスチックを一緒に煮出している。これを毎日飲むのは絶対にイヤだった。
だから、徹底的に考えた。TBDでは人体に害を及ぼすような商品は絶対に販売したくない。
最終的にたどり着いたのは、1袋2.5g。お茶の種類にもよるが、約500〜800mlを淹れられる。そしてそれを2袋入り(合計5g)のプラスチックが完全に入っていないパルプ性の素材のティーバッグの商品を考えた。
なぜ2袋?
1袋に5g詰め込むと、茶葉が開かず美味しいお茶を抽出できない。またティーバッグ2袋なら柔軟に使える。朝1袋、午後にもう1袋とか、2袋一緒に淹れて友達とシェアとかね。登山に持っていって1日中山を登りながらお茶を楽しむ。
もちろんティーバッグの素材も大切。見つけたのは“木の繊維からできたティーバッグ”。プラスチックなし。お湯にも強く、クリーンで誠実。まさに革新だった。
僕たちが提供できる価値の話をしよう
ここが一番好きなポイント。
日本のドリップコーヒーは1袋¥300〜700。一度淹れて、約150mlで終わり。
でも僕たちのティーバッグは、同じくらいの価格で5gの茶葉。700ml〜1.6リットル(特に熟成もののお茶、白茶やプーアル茶ならもっと)淹れられる。
量にして10倍以上。
でも、量だけじゃない。お茶は味が変化していく。
1煎目は華やかで明るくまだ少し青みが勝る。2煎目は茶葉が徐々に開いてきて、味もやわらかくなる。3煎目は茶葉が開き切って奥深く深く、時に甘い味わいを感じられる。
お茶を飲むこと、それ自体が「一種の旅」もしくは「年齢を重ねる過程」に似ているなと思ったり。
ドリップコーヒーは基本的に一杯でパンチのあるひとつの味。お茶は一日を通して、ずっと寄り添ってくれる。
それこそが、本当の価値だと思う。
日常の中のお茶の存在
僕はよく東京を歩き回る。ドイツ人は散歩が大好きだ。カフェで仕事をしたり、山を歩いたり。
時には1時間以上かかるのに電車ではなくて徒歩で家に帰る時もある。そんなとき、いつもお茶を持ち歩きたい。
リーフティーから淹れるのは美しいけれど、外出先では難しい。トラベルセットも好きだけど、いつも持ち歩くには少し場所を取る。だからこそ、このティーバッグが意味を持つ。
バッグに入れて、オフィスでも、電車でも、キャンプ先でも。どこでも淹れられる。
お茶にそなわる儀式を「置き換える」わけじゃない。ただ、「もうひとつの選択肢」をみなさんにも知って欲しい。
渋谷でのポップアップイベントでお茶を提供したら
すべてがつながったのは、初めて渋谷でポップアップを開催したときのこと。
台湾の茶葉専門店とコラボして、提供したのはたった2種類のコールドブリュー。
紅玉(Ruby 18)と金萱(Golden Lily)。それだけ。何も加えず、ただお茶だけ。
お客さんの反応は、驚くほどだった。
最初はみんな礼儀正しく、「あ、試飲ね」と軽く口にする。でも、次の瞬間目を見開き、笑顔がこぼれ、時には笑い出す人もいた。
そしてほとんどの人が同じことを聞いた。「これ、砂糖入ってるの?」
もちろん、入っていない。入れる必要がなかった。それほど茶葉本来の素材が良いのだ。
その瞬間、僕は確信した。みんな“準備ができている”。ただ、まだ美味しいお茶に出会うという体験をしていないだけなんだと。
コーヒーの隣にあるお茶
東京にはコーヒーがあふれている。創造的で、刺激的なコーヒーショップが。
でもお茶は?自販機やコンビニのペットボトルか、敷居の高い茶室の中だけ。
その「中間の存在」がない。
TBD°は、その“あいだ”になりたい。カフェのように気軽に立ち寄れるティースタンド。
ふらっと入って、烏龍茶を頼んで、座ってゆっくりお茶を飲む。
儀式も砂糖もいらない。添加物もいらない。ただ、葉と水を丁寧に扱うだけ。
コーヒーを置き換えるためじゃない。みなさんにとっての新しい選択肢として「お茶」を提案して行きたい。そのために
TBD° = Tea Be Defined(お茶を新しく定義する)
という思いを込めてブランドの名前を決めたのだった。
これからTBD°が目指すこと
今やっていること、ティーバッグのデザイン、茶葉の仕入れ、ポップアップの開催 などなど。
これはすべてはひとつの目標に向かっている。
2026年、東京に最初の店舗を開くこと!!
僕の頭の中にはもう、その光景がある。
静かで、あたたかく、ミニマルでモダンな空間。(コーヒーで言えばBlue Bottleのような場所)
台湾・中国の茶葉をシーズナルで提供するのもいい。安定したお茶を淹れ、シンプルに提供する。
おまかせや茶室のような予約もいらない。気負わなくてよい場所。ただ「お茶って、こういうものなんだ」と知る場所。
なぜTBD°が存在するのか
結局のところ、原点はあの最初の問いに戻る。
なぜ現代の飲みものは、こんなにも砂糖や添加物が入っているの...?
なぜ“素材”そのものの味を楽しめないの?
お茶は僕に“可能性”を教えてくれた。だから今度は、僕がそれを人に伝えたい。
ときに、いちばん“革新的”なことは、いちばん“シンプル”なことだったりする。
すでに素晴らしいものを、そのまま出すこと。
それが、TBD° のすべてでこれからの活動の目標でもある。